リレーエッセイ Vol.5

家業とともに学んだ学生生活

経済科学研究科博士前期課程2016年修了 吉田 豊

 冒頭をどのように表現すればいいのか…一番悩むところですが、基本的にはざっくばらんに表現させていただきます。
 私の場合、生まれも育ちも群馬県桐生市ということで、学部は本学ではなく、2002年に地元の公立大学を卒業して、まちづくりや公団住宅などを管理する会社へ入職しました。その後、2014年2月から実家の家業を継ぎ、現在はワイヤーハーネスの加工やショーケースなど用のコードヒーターの加工をおこなう会社の2代目として事業継承のさなかにいます。
本学とは大学院経済科学研究科博士前期へ2014年に入学したことで関係を持つことができました。大学院は社会人大学院生が多く、同期や先輩方の年齢も職種もバラバラななかで主に飲みにケーションで、時には先生方を交えて、講義中も真剣に議論をさせていただきながら、仲良くさせていただいたことが一番の思い出です。そして、2016年に修了してから4年間経和会で本学の先輩方と懇親を深めさせていただき、本年より会計幹事を務めさせていただくこととなりました。そのような本学での生活は楽しいものがほとんどですが、1つ大変だったのは入学試験を受けた際には前職で勤務していたため、当時の勤務地であった横浜からキャンパスのある東京ステーションカレッジ(東京駅)まで30分ちょいかけて通学すればいいと漠然と考えていたのが、諸般の事情があり、前職を退職して家業の見習い従業員をやりながら、自宅である群馬県みどり市から通学しなければならなかったことでしょうか。18時30分からの講義に間に合わせるためには15時に仕事を終わらせて東京へ向かい、最終限まである場合は自家用車で足利市まで向かい、帰宅が深夜の1時近くという生活を経験したことかと思います。今であれば、某テレビ局の番組で密着してもらえるのではないかと思う生活をしていたことが今でも思い出されます。(今だと…無理かもしれません!)
話は少し戻りますが、私の大学院での研究テーマは『静岡産地の荒茶生産工程における企業形態の現状と今後の行方-山間地産地と平坦地産地を例に-』という埼玉県でも狭山茶という名産品がありますが、静岡県の平野部と山間地で作られている日本茶のことをテーマにした研究をしました。少し細かく書かせていただくと、読んでいただいている方々が通常飲んでいらっしゃる日本茶は1次仕上げした製品を水色や味、匂いなどがよくなるようにブレンドして作られている場合がほとんどなのですが、その1次仕上げをする段階の業者さんに今後の産地の動向とか、企業としての形態がどのようになっていくのでしょうかなどと聞き取り調査をして、論文としてまとめていきました。ここでの経験が実は現在の本業以外の部分で役に立つことになりました。
本業の方はどうしても加工業ということもあり、ここで書いてもあまり面白いものごとはないのですが、失敗談はたくさんあります。今もちょうどリカバリーの最中ですが、弊社はある企業さんの一次下請けの位置にあるため、基本的にはそんなに親会社に不平を言える立場にはないのが現状です。先日、詳しくは書けませんが、今後の事業展開を考えて、第2工場を撤退しないといけないなと漠然と考えていたのですが、その際に従業員の契約満了期間の話と撤退の話が重なる形となり、従業員との雇用契約はしっかりと周囲を見渡しておこなわなければならないという反省点を示してくれたものでした。それは私自身の視野が狭かったのか、それともそれ以外が問題であったのかははっきりと言えないものでしたが、社労士曰く5年に1度くらい発生するものが重なったねとのことで、もし家業を継がれる学生さんがいらっしゃった場合は気にしていただければと思います。
それ以外には1つだけ弊社の自慢を書かせていただくならば、弊社は高校生の従業員を社内の主力に据えています。高校生といっても定時制の高校生ですが、彼らにとっては今が一番伸びる時期で無限の可能性を持っていると考えています。もちろん弊社に残ってほしいのですが、卒業と同時に他社へ転職してもついていけるだけの技術を身に付けさせて、19歳の春を迎えてもらうことを弊社の人材育成プランの1番に据えています。そういうプランを作るのが今の本業での1番の楽しみかもしれません。
それ以外で今一番力を入れているものをここで書かせていただきます。基本的に新卒でまちづくりをおこなう会社へ勤務したことからもわかるように、私自身がまちづくりというものが好きで、少しでもまちが良い方向へ向いてほしいとの思いから、学部時代には大学内に学長へプレゼンをして、駐輪場をデザイン等も含めて設置させていただいたり、バス会社へ自分で調査した輸送統計をベースとした論文を提出して、高崎駅から大学まで1日18往復の臨時バスを2週間運行させてもらったりと無茶をしていた経験があります。現在も高崎市でも開催されていますが、「みどり市民にとっても農産品が市全体の主要産業であるとの認識が低いことから市内で生産された野菜類を中心とした農産品を中心に大間々の中心市街地で販売することにより、地産地消の循環型システムを作るための社会実験を行う。同時に大間々町の中心市街地にて定期的な賑わいを演出するイベントを行うことで、集客と回遊の効果を高め、中心市街地の人口減少が進行している状況のなかで中心市街地の都市としての魅力を再発見すること、小売商業の振興発展と販促活動を目的に開催する。なお、みどり市ブランドを中心としたみどり市の産品はあるものの未だに十分な活用が行われている状況とは言えないため、当初は『高崎昼市』などに出店している他地域の農山漁村の産品も販売し、みどり市の農産品とマッチングを図ることでみどり市における独自ブランドを構築する場所としての役割も担うこととする。」ことを目的に「おおまま昼市」というものを毎月第2日曜日の11時から15時まで開催しています。今月の開催で11回目となりますが、今は1回の開催で多いときで300人くらいが来場され、少しずつ認知度も向上しつつあるのかなと考えています。このイベントを開催するときに役立ったのが修士論文で研究した農業のことで、出店者の方々と今後も方向性などをある程度専門的に話をすることができ、また昼市の今後の展開を各地の集荷業者さん等と相談させていただく際にも役に立っています。
今後は本業では少なくとも従業員の方々が十分な生活ができるように、まずは継続して取り組んでいくことと少しでもQOLが上昇する環境を整えることを第1の目標として、第2の目標としては現在が1.5社取引の状態なので、取引先を増加させることを考えています。仕事以外のことでは昼市の集客を増やすための工夫を図ることが直近の目標で、当初描いていた常設のアンテナショップの設置や大間々町の中心部でなんでもできる常設施設の設置などに向かって、計画を作っていくことが私の夢の1つです。
最後になりますが、私は埼玉大学へ2年間の通学でしたが、諸先輩方や同期をはじめとして素晴らしい方々が多くいらっしゃると感じています。そして埼玉という恵まれた環境のなかで、恩師や友人たちとのつながり、そして学校生活や普段の生活のなかでの楽しみなどのなかで自分の将来を白いキャンパスに描いてほしいと思います。



<2017年の大学院修了記念パーティーでの主催者挨拶>

<おおまま昼市の様子>

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